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スポーツ選手の場合、それがメジャーでもマイナーでも
後援団体やスポンサーによるレセプションなどがシーズンの内外限らず催されると、
個人的な提携関係はなくとも協会の依頼などなどで出席を余儀なくされることがある。
やはり招待された芸能人や プロのコンパニオンが華を添えるような級の宴席な場合、
財界の大物が集うだけあって それなりのセキュリティがしかれる筈じゃああるが、
国賓が集うような外交官のパーティーでもない以上、
確認といってもせいぜい招待状を持っているかどうか程度だろうし、
来賓側が勝手に私的な友人を連れて入場されては拒否も出来ず。
そんなこんなな事情が絡まり合った末のうっかりと、
熱狂的な一般のファンがコネを使って潜り込んでいることもあるのが現状。
そしてここが素人さんの恐ろしさ、
憧れの対象と至近距離で接したことから舞い上がった末に
勝手に身内レベルで親しくなった気になって、
すっかりのぼせたまんま
交際しているとか婚約したなど勝手にネットなどに書き連らね、
そこから すわ不倫かそれとも秘密の熱愛交際か、
いやいやストーカーだろうなんて種の炎上騒ぎになる話もなくはない。
『芥川くんもそういうのは警戒しているの?』
何と言っても “氷上の貴公子”と評される旬のイケメン、
しかも若いのに よく言ってストイックな朴念仁と来て。
そんな存在と口を利ければ “アタシにだけ特別vv”なんて誤解されるんじゃないかと、
あくまでも心配して女性記者から訊かれたのへ、
『そんな不埒などいたしません。』
キョトンと小首をかしげて、
何をまたそんな法外なこと言うのだこの人はという空気を押し出したそうで。
生真面目だなぁと思ったのは部外者のみ、
結構気が強い敦ちゃんがごねようしなぁと苦笑したのが準スタッフの皆様で。
そんな面々よりも乾いた笑いようをしたのが、
太宰が黙ってないというか、
黙ったままで何するか判らないからじゃね?
と感じたのが、最も近しい相談相手級の数人ほどの面々で。
『だって、敦ちゃんの随身だってこともあろうし、
キミ、中也さんの秘蔵っ子って立場判ってる?と、
彼女困らせるような子に育てた覚えはないとか言い出しかねないし。』
ゥわお、何というか カオスですなぁそれ。(笑)
彼らだけに通じる “前世”事情込みですものね。
そんな不可思議要素込みの、
色々と複雑に絡み合ってる機微のようなものを知り尽くしていないと、
即座にピンと来るのは難しいかも…。
そんなこんなという特殊な身内事情持ちだからという話ではないが、
「あの…太宰さん?」
スケーティングに関しては、谷崎にお任せの敦お嬢様。
スタッフの間でのその辺りの割り振りは彼女だって重々承知だろうから、
なのに太宰に何か言いたげということはそれ以外の案件へのお話があろうから。
それこそそのくらいの機微くらい承知の勘のいい御仁である背高のっぽの随身様、
女性受けする嫋やかな美貌をほころばせ、
「どうしたんだい?」
明日にも予選が始まろう、横浜〇HK杯の準備にと、
備品係やスケジュール調整担当などなどが
宿舎であるホテルの廊下をスマホ片手に忙しそうに たったか駆けてくのを背景に、
こちらも貸し切りのフロアの窓辺の突き当たり、
ロビーを兼ねて据えられたソファーセットに手持ち無沙汰に坐していたお兄様。
ややおずおずと声をかけて来た、ツアーの主役である虎の姫ちゃんへ、
暇なのかな?だったら私と散歩に出も出るかい?なんて、
調子のいいこと話しかけかかったのだが、
「あのあの、中也さんって女子校出身ですよね?」
「ああ。
信じがたいけど結構由緒あるミッションスクールに幼稚舎から短大まで通ってたらしいよ。」
よそゆきのお顔やお作法、言動や態度は完璧だから
学歴が披露されても別段支障は出てないらしいけど、
日頃の方に親しいと何か意外だよねなんて、冗談半分 笑い飛ばしかかる兄人なのへ。
それでもやや堅い表情は崩せぬまま、
話したもんかどうかという逡巡をため息交じりに吹き払ったらしいお嬢様、
ちょっと気になったことを見かけたんですと切り出して。
昨日 滑走順のくじを引きに会場へ行ったじゃないですか。
その時、先に着いてた中也さんたちを見かけたんですよ、
ほぼ同時、ほんの一足差って感じだったんですが、一般の人が詰めかけててごった返してたんで
中に入ってからのご挨拶になったほどで。
なので、こっちからも声は掛けないまま、
でも相手はすぐって距離で見えてるって位置関係にあったんですが、
「中也さんと同世代くらいの女の人が、スタッフの入り口周りの人垣の中にいたんです。」
5,6人のグループって感じで、
観客側の人だと スポカジじゃあない人も珍しくはないけれど、
それでもなんかちょっと場違いな着飾りようをしている人たちで。
それで見分けられたほど浮いてたっていうか。
「その人、中也さんを “中原”って苗字呼びしてたので、
何だろ、親しいからこその口利きなのかなぁ。
だけど、何か怖いなぁって思って、あの…。」
意外に思うかも知れないが、女子校でよくあるのが苗字の呼び捨てで、
可愛らしい愛称で呼び合うのは低学年のころか相当に仲がいい間柄な場合。
さん付けは他人行儀とされ、
単なるクラスメートの場合は男子校と同じで呼び捨ても珍しくはない。
男性の目がないせいか、思わぬところで がさつというか乱暴なままな言動をしてしまい、
そのまま染みついているということは結構あって。
敦ちゃんもどちらかといや お嬢様環境で育っているので、
呼び捨て自体は苦笑交じりに “あるある”という理解も出来なくはなかったものの、
学外で、しかも卒業して結構な歳月も立っていようにそれが出た辺り、
到底 良家の子女とは思えなかったらしい。
しかも、何だか安っぽい派手さをまとった一団だったので
ますますと中也にはそぐわぬ気がして、違和感ばかりが募って止まぬ。
中也自身もちょっぴり柄が悪いというか、
そこそこの良いご家庭の娘さんだのにやや雑なところがなくはない。
当人の人性は人懐っこくて気も利くお人だが、
荒事をこなす関係か、やや荒い口利きをするところがあって、
親しい間柄にはそういう人で済むけれど、それでもお初に見た人はギャップに面食らう。
ただ、今太宰が口にしたように、よそゆきの態度もきっちりわきまえてるようなお人だし、
雰囲気からして自警団関係の知己でもなさそうなのに、あれれぇと。
白虎のお嬢さんにしてみれば、そういった辺りが判っているだけに、
お友達なのかな、でもなんか空気が悪かったと気になっているようで。
「………。」
根拠はないし、結局のところ、彼女らと中也は接することもなかったので
敦が大外から気にすることはないのかもと、
気分的に持て余していた挙句の注進というか告白もどきだったようで。
世間知らずなお嬢様だが、前世の記憶が戻ってからこっち何かと勘もよくなって来たらしい虎の姫。
そんな彼女が関係ないないと忘れちゃうことも出来ずにいたらしい出来事とやらへ
こちらさんも不穏な何かを鋭敏に嗅ぎ取ったか、
「…それってどんな人たちだったのかな?」
詳細を利かせてとにっこり笑った太宰さんも、
穏やかそうな態度とは裏腹、久し振りに見る怖さだったと、のちに語った敦ちゃんだった。
そう。選りにも選って、兆しは敦ちゃんが持ってきたそんな一言だったというから、
そこからああまで周到に、全部調べたうえで対処の手も打ってた辺り、
怒らせると底が見えないほどおっかないお兄さんなところは健在だったねぇと、
双方のスタッフ全員が納得した一騒ぎだったとか。
to be continued.(19.11.16.〜)
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*しまった、種明かしに手間取って 肝心なオチまで届かなかった。
もうちょっと続きますね。どうかお待ちを…。

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